これまで映画界の第一線で、たくさんの有名作品に関わってきた本田憲拡さん。現在はニュージーランドを代表する美容学校Cut Above の特殊メイクコースで、日々技術者の育成に取り組んでいる。
【Profile】本田 憲拡( ほんだ のりひろ) Cut Above / 特殊メイクコース講師(Diploma in Production Design and Sculpting Level 5 Tutor) 1970年生まれ。熊本県の高校を卒業後、当時ハリウッドで特殊メイクアーティストの地位を築いていた日本人のもとへ弟子入り。『スピーシーズ』、『アナコンダ』、『メン・イン・ブラック』など数々の作品に関わり、1999年特撮工房Weta Work Shopからのオファーをきっかけにニュージーランドへ。一年後日本へ帰国。2004年、再度ニュージーランドへ渡りCut Above の講師として教鞭をふるう。 |
高校卒業後アメリカへ
小さい頃から映画が好きで、特に特殊メイクに興味を持った僕は、とにかく現場を体験してみたいという希望がありました。80年代、まだ今のようにインターネットもなかった頃、日本人としてハリウッドで特殊メイクアーティストの地位を築いていたスクリーミング・マッド・ジョージ氏の記事を雑誌で見つけ、どうしても彼と連絡を取って僕の思いを伝えたくて、その雑誌やライターの連絡先をたどり、なんと本人と話をすることができたんです。そうこうして、高校卒業後に彼の元へ弟子入りすることになりました。しかし、どうやって飛行機に乗るのか海外に行くのかも分からず、全てが手探りでした。
造形の基本は、まず粘土で完成となる原型を作ります。そしてシリコンや石膏などで型を取り、その型に樹脂等を流し込むという流れです。とても忙しいスクリーミング・マッド・ジョージ氏の元では、手取り足取り教えてくれるというのではなく彼の仕事現場を見て自ら学んでいく必要がありました。幸いにも、僕より先にもう一人弟子の方がいて、彼がよく僕の面倒を見てくれました。その後、『スパイダーマン2』なども手掛けたことのあるスティーブ・ジョンソン氏のところで8年間お世話になりました

オファーをきっかけにニュージーランドそして日本
アメリカ生活も10 年を迎えた頃、ちょうどニュージーランドの特撮工房Weta Work Shopでは『ロード・オブ・ザ・リングス』の準備が始まり、アメリカへ人材探しに来ていました。そこでニュージーランドでの制作の話を持ちかけられ、Weta のある街ウェリントンに来ることになったのです。最初は街の規模の違いに驚いてしまいましたが、さらに労働面でも違っていて、アメリカでは一つの仕事を数週間、長くても3ヶ月くらいで行っていたのですが、ニュージーランドでの『ロード・オブ・ザ・リングス』の仕事は、結局日本に帰る一年後でも終了していませんでした。

それだけこの映画の監督ピーター・ジャクソンはものすごくディテールにこだわっていて、例えば作ったホビットの耳を二つ手に取り色んな角度で眺めて、「この部分の毛穴の位置がずれてる、やりなおしてくれ」と指示を出すような人でした。その後、日本では『ゴジラ』、『ウルトラマン』などをはじめとする映画、CM、そして某大学の解剖学の教授と骨格から人体を再現するという企画にも携わりました。こうして、4年ほど忙しく刺激的な日本の生活を送っていたのですが、その反動か、ニュージーランドでの仕事の合間に楽しんでいた釣りがだんだん恋しくなり、家族と共に再びニュージーランドで生活しようということになりました。
Cut Aboveでの講師
ニュージーランドではこれまでとは違う立場で造形に携わってみるのもいいかと思っていたところ、タイミング良くCut Aboveという専門学校の特殊メイクコースで講師として採用されました。これまでの造形の現場ではいつも後輩の指導をしていたので、教職にもすんなり溶け込めました。このコースでは、意外にも女性が多く、そして若い学生ばかりです。
しかし実際、現場では男性が多く、これは体力的にも精神的にもタフでなければいけないことを物語っています。ただ、女性やアジア人は比較的とても器用なので、その点有利ですね。特殊メイクという世界は、映画制作費と共に縮小傾向にあり、それまで使われていた特殊メイクの技術はCGに換えられつつあります。しかし、『ロード・オブ・ザ・リングス』などの大ヒット映画により、ニュージーランドは近年世界から映画大国として認識されるようになってきました。通常このクラスの入学希望者は10名前後なのですが、先日は次期コース入学希望者が約30名もいると聞かされ、このように若者が興味をもっているという事実はこの業界内の明るいニュースです。現在では技術を披露できるニュージーランドのボディーアートアワードも開催されており、今後に期待したいと思っています。
| わたしの仕事道具 | |
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造形用の工具の数々。これらは箱に入れていつも持ち歩いている。「これさえあれば仕事ができる。日本から来た時もこれだけは持ってきたんです」と憲拡さん |


