2006年、事実上「3つ目」の公用語として指定されたニュージーランドの手話は、コミュニケーションのツールであり、言語の一つ。イギリスから伝来し、独自の発展と進化を遂げてきたニュージーランド手話(NZSL)とは一体どのようなものなのでしょうか。
Sara Pivac Alexander
言語学習やデフコミュニティーの研究などを行う「Deaf Studies Research Unit」の1人であり、教授を務めるウェリントンのビクトリア大学では聴覚障がい学を教えている。また、初心者でもNZSLをオンライン上で学べるウェブサイト「Learn NZSL(http://www.learnnzsl.nz)」を開設し、その発展に努めてきた。さらに、NZSLの講師たちに向け、カリキュラムの作成などを行っている。 2018年5月にはLearn NZSLのプロジェクトリーダーとしての功績が認められ、アクションアワードのNZSLメディア部門で賞を受賞。
Publications:
・Pivac Alexander, S., Vale, & McKee, R. (2017). E-learning of New Zealand Sign Language: Evaluating learner’s perceptions and practical achievements. New Zealand Studies in Applied Linguistics, 22 Dec 2017. ・Pivac Alexander, S., Lessing, V., & Ovens, S. (2015). TeachSign: NZSL Level One Community Education Curriculum. Retrieved from http://www.teachsign.org.nz ・Pivac Alexander, S. (2012). A Report for TAB Book Project Committee: New Zealand Sign Language Level One Resource Needs Survey.
ニュージーランド手話(NZSL)について
手話は世界共通ではなく、それぞれの国で独自に発展してきた言語です。ニュージーランドのろうコミュニティーは、ニュージーランド手話(New Zealand Sign Language)が2006年に公用語として導入されるまで、20年もの長きにわたり、公的認知を求める運動を続けてきました。 現在ではデフクラブやラグビーやバドミントン、バスケットボールといったデフスポーツにFacebook上でのオンライングループなど、ろうの人たちと、あるいは当事者同士で関わりを持てるコミュニティーはさまざまです。中でも4年に一度行われるスポーツの国際大会「デフリンピック」は次回2021年開催、見逃せません。
豆知識
マオリ語とNZSLが法律で定 められた公用語であるのに対し、ニュージーランドの英語は事実上の公用語(De Facto Official Language)。「公用語に定めずとも大多数が使用している言語であるため」との理由によるものです。
NZSLの歴史
NZSLは1800年代中旬、イギリスからの移民によってイギリス手話(British Sign Language)がニュージーランドに伝わったことにより始まり、現代に至るまで進化を遂げてきました。
しかし初のろう学校「van Asch」が設立された1880年から1979年までの約100年間にわたり手話の使用が禁止され、結果的に「手話は言語ではない」という認識を一般市民に植え付けてしまいます。当時はろう者に対してもNZSLを使用する代わりに、話すことと唇を読むこと(読唇)が求められることもありました。
ろう社会の中で「NZSL」と呼ばれるようになったのは1980年代後半頃のこと。ビクトリア大学で、ニュージーランド初のNZSLに関する研究がなされてからです。また、1985年には初の通訳コースが開講されました。
現在はろう者以外でNZSLを学習する人々が増加してきているものの、通訳者が不足していることや、ろうの子どもたちを教えられるレベルでNZSLを使いこなせる教師が確保できないことなど、課題はいまだ山積みとなっています。
数字で知るNZSL
手話が認知されている国
41
国連に加盟している193の国の中で手話が言語として認識されている国は、日本をはじめ、ノルウェー、ロシアやメキシコなど41カ国。うち憲法により認知されているのがニュージーランドやハンガリー、フィンランド含む11カ国です。
世界で使用されている手話
200以上
手話は世界共通ではありません。国ごとによって認知されている手話が違うため、2018年5月現在、200種類以上の手話が世界で使われているといいます。
NZSLの使用人口
約20,000
2013年に行われた国勢調査の結果によると、ニュージーランド国内では20,000以上の人がNZSLを使用しているとのこと。これにはろうでないNZSLを使う人も含まれています。
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公用語としての手話を祝う
「NZSLウィーク」とは
ニュージーランドでは手話が公用語の一つとして認定されたことを祝い、ろうコミュニティーや文化、その言語などの知識を広めるため、毎年5月に「NZSLウィーク」が開催されています(2018年は5月7~13日)。
全国各地でさまざまなイベントや無料体験クラスが行われ、手話について深く考える機会が設けられているのは、バリアフリー先進国の一つであるニュージーランドならでは。今年のテーマは「NZSL is for Everyone.(みんなのNZSL)」でした。
