Vol.137 7年越しの永住権


ノースショアにある建築会社でキャビネットメーカーとして働く宮内さんが永住権を取得したのは1年半前のこと。しかし、それまでには長い道のりがあった。日本での職歴を活かした仕事を見つけ、それを続けていたことが永住権につながったという。

キャビネットメーカー【Profile】
宮内 憲1970年生まれ群馬県出身。日本ではダスキンサービスマスターのフランチャイズを取り、清掃の仕事に携わる。大工仕事が趣味であったため、クリーニングの仕事をしながら、家ではちょっとした棚や家具を作っていたが、現在はそのスキルが認められキャビネット製作の部門で働く。日本人が持っている器用さやきめ細かさはNZの仕事では大きな武器になるという。


家族と共にニュージーランドへ

キャビネットメーカー
North Starのスタッフは大工の資格も持っているため、場合によっては修理や修復ではなく家を一軒建てることもあるという
キャビネットメーカー
将来、時間ができたら、日本好きの社長と一緒に日本を旅行したいという。
キャビネットメーカー
今でも週の終わりには30分かけて社内の整理整頓や清掃を行っている
キャビネットメーカー
キャビネットメーカー
壁に画いてある道具の形は宮内さんのアイディア
キャビネットメーカー

ニュージーランドに来たのは2004年のことでした。日本では清掃関連の会社のフランチャイズを取ってオフィスや家庭の清掃業務をしておりました。その頃、子どもや家族との生活を心身ともに健康な環境で送りたいなと考えていましたので、日本では田舎暮らしができる場所や機会を探しておりましたが、なかなかマッチする場所がありませんでした。そんなときに、ニュージーランドの話が持ち上がり、すぐに家族全員でこちらに来たのです。ニュージーランドでは語学学校に通いながら仕事を探しました。とはいうものの、当時は英語の方がまったく駄目でしたので、どこをどう探していいのかさえわからないままでした。そんなとき、クリーナーを探している人を紹介するよというお話をいただきました。それが今の会社North Starの社長でした。彼は剣道をしていて、日本のことや日本人の気質などをよく知っている人でした。そのため、英語をまったく話すことができなかった私のことも、それまでの経験やクリーニングのスキルを考慮していただき、受け入れてくれました。

日本での経験を活かした仕事

North Starは主に保険会社から依頼を受けて、事故や災害などでダメージを受けた家や建物の修理・修繕を行う会社です。例えば、火災によって外壁が焼けてしまったらそれを直したり、建て直したりしますし、浸水によってキッチンや台所のキャビネットがダメージを受けたのであれば、その部屋をキレイに掃除して、同じものを作り直して設置します。私が採用されたのはそのクリーニングの部門でした。保険で適応されるクリーニングは、通常の「掃除」とは違い、小火の後のススで真っ黒になった壁や、大雨で土砂が入ってしまった後の部屋などを元通りに戻すことです。場合によっては最終的にバクテリアのチェックを行ったりします。ウィルス感染している人の家のクリーニングなどもありました。そうしたクリーニングといっても少し特殊な清掃の仕事内容でしたが、なにしろNZに来て間もないころでしたので、英語の方はまったく聞き取れず、通じませんでした。どれくらいのレベルであったのかと言えば、例えば車を購入するためにディーラーを回った時には、自分の予算の2000ドルを相手に伝えるのに、指を2本立ててピースサインをしながら「にせんどる、にせんどる」と日本語で言って、まったく相手に理解してもらえなかったというぐらいです。それでも、仕事となるとそういうわけにはいきません。相手の言葉を理解するしかないですし、こちらの意思を伝える必要があります。幸い、仕事の内容が日本でのスキルの延長にありましたので、行動を通して一つ一つの単語や言い回しを覚えていきました。

不得意だった英語

一番苦手だったのは、クリーニング先の住所を電話で伝えられることでした。音声だけで住所を言われても土地勘もなく、地名にも馴染みがないころは、ただただ意味不明な音が聞こえてきて、たった一つの言葉を拾うにも何度も聞き返さなくてはなりませんでした。そこで、電話ではなく、テキストメッセージで送ってくれるようにお願いしたところ、そちらの方が効率がいいということになり、それ以来、テキストメッセージ文字通り私にとっての「英語のテキスト」となり、そこに書かれている言いまわしを覚えていました。その他には、相手の言っていることが聞き取れず、聞き返したとしても、同じフレーズを繰り返されて、結局聞き取ることができないと言うことが多々ありました。そこで、ある時、「違う言い方で言ってください」とお願いしてみました。すると相手は言い方を変えて話をしてくれるようになりました。それによって単語を拾うことができたりして、それまでのように何度も聞き返す回数がグッと減りました。今では会社の人みんな、私が聞き返した場合は、最初とは違う表現で話をしてくれるようになりました。結局、時間が取れず、働きながら学ぶしかありませんでしたが、仕事をするのであれば、ちゃんと語学学校に通って学んでからの方がいいと今でも思っています。

永住権取得

こちらに来た目的は子供にとって良い環境で生活をすることでしたから、永住権についても早々に申請をしておりました。しかし結局、取得するのに、7年かかりました。時間がかかった要因は、私の仕事であるクリーニングがカテゴリーになかったという点だと思います。これは後日談なのですが、実は私の申請は、審査の途中で一度「却下」されていたようなのです。本来でしたら、そこで申請自体がご破算になっていたはずなのですが、担当のオフィサーがこちらにその旨を知らせてくれていなかったため、「却下」自体が一旦取り消しになり、再度審査ということになったのです。このやり取りだけで数年かかっていました。その後、再審査でも、やはり職種がカテゴリーにないことが引っかかりました。そのため、最終的な判断ということで、24人の審査官が私の事案をチェックして、そこでOKをもらい、最終的に移民大臣のサインをもらうという審査になり、そこで申請が認められ、晴れて取得となったのです。現在はクリーニングの部門からキャビネット製作部門に移り、毎日、火事や浸水でダメージを受けた家に取り付ける台所や洗面所のキャビネットを作っています。結果として長く務めたことが永住権につながったと自分では思っているのですが、会社の中で私は英語が苦手な分、自分が得意とすることを社長と話をして積極的に行ってきました。それは簡単に言ってしまえば「整理整頓」です。道具の管理や職場の整理整頓をすることで、無駄をなくすことができますし、なにより、スタッフ全員が気持よく働くことができます。入社してから9年間、その部分を私が担ってきましたし、担当部署が変わった今でも、それは私の仕事の一つだと思っています。今後も今の仕事を楽しみながらニュージーランドライフを楽しんでいきたいと思っております。

永住権がとれた理由は・・・

私の個人的な考えなのですが、「一つの会社に長い間勤めており、かつ職種も変わっていない」という点が功を奏したのかと思っています。「クリーナー」というと表面的に考えれば、そこに日本人であるとか、○○人であるといった必要性はないように思われます。しかし、私が携わっていたのは特殊な清掃の仕事でしたので、専門的な知識やスキルが必要になります。その点を審査官に理解してもらえたことと、その上で、それに7年間も携わっていたと点で、「この人間は特別技術を持っている」と判断されたのだと思っています。

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