クライストチャーチのトレンディーな家具屋さんの一画に2010年ニュージーランド・バリスタ・チャンピオン、ルチアーノさんのカフェがあります。家具屋さん+カフェは、最近ニュージーランドではやりの業態。家具のショッピングに来て、そこでおいしいコーヒーを飲みながら家具の品定めをしたり、相談したりと、ゆっくりと時間を費やすことができます。今月はルチアーノさんにコーヒーへの情熱と人生を語っていただきました。
【Profile】 |
バリスタへの道
ちょうど20歳を過ぎた頃、家を離れて海外への旅に出ました。ヨーロッパや北米など、あちこちを旅行しましたが、その最中にカナダ出身の女性に出会い、結婚しました。妻が旅行で訪問したことのあるニュージーランドを非常に気に入っていたこともあって、13年前、1997年に二人でニュージーランドに来たのです。クライストチャーチに根をおろしたのですが、自分は英語がほとんどしゃべれませんでした。そこで、クライストチャーチ・ポリテックに入って英語を学ぶことから始めました。英語学科終了後は、前から興味をもっていた同じポリテックのホスピタリティーコースに入学しました。ここが自分のコーヒーを専門とする飲食業界キャリアの出発点です。ディプロマコースでレストランやワインの勉強をしていた時に、コーヒーメイキングの授業があったからです。その頃は、キャリア作りに一生懸命になっていたし、学べるものは何でも吸収したかったのです。キッチンハンドとしてポリテックのレストランで、無料奉仕で働かせてもらいました。下働きがほとんどですが、コーヒーも作りました。キャリアに結びつくものに積極的に入り込んでいったのです。ホスピタリティーコースでコーヒーメイキングを勉強しましたから、コース終了後の最初の就職先は、クライストチャーチ市内のカフェでした。コーヒーメイキングのお手本となるいいボスにもめぐり会えたので、この頃は現場で働きながらコーヒーについて多くを学べました。カスタマーサービスに関しては、ホスピタリティーコースでの勉強と、もともと家業がサービス業だったので、家の手伝いをしながら自然に学べたことで身についていたと思います。しばらくはこうしてカフェで働き、バリスタの基盤を築いていきました。バリスタとしての技術が身につき始めたのもこの頃で、ニュージーランドの大会にも出場し始めました。そんな折に、母校のクライストチャーチ・ポリテックから、コーヒーメイキングの講師をしてくれないかと声がかかったのです。自分の学んだコーヒーメイキングを教える事にも興味があったので、母校に戻って、結果的には4年間教えました。
バリスタとコーヒー豆
この頃になると、クライストチャーチのバリスタとして自分の知名度も上がってきましたし、クライストチャーチのコーヒー業界関係者とのコンタクトの輪が広がっていきました。ある時、コーヒー豆のローストを手がけている業者から、ハンターというクライストチャーチの家具屋の新店舗の一画にカフェを開店する話があるが、それを経営してみないかという話を持ち込まれたのです。お店を持つ事はチャレンジです。4年間のポリテックの仕事を辞め、覚悟して再びカフェの現場にもどってきました。エスプレッソ系のコーヒーはバリスタの技量が問われます。豆のひき方、ひいたコーヒーを器具へ詰める圧縮度、エスプレッソ抽出の速度、ミルクの温度やきめの細かさなど、これらがバリスタが直接手を加える部分です。さらに、バリスタ以外の部分、豆の種類、豆の挽き方、ブレンドの具合などもおいしさを左右する大きな要素です。ですから、豆の卸しをやっている業者と豆についてしっかりと話をします。その豆をひいてくれる業者とは、自分の要望を理解してもらい、常に話し合いながら満足のいくひき方をお願いします。こういったコーヒー業者との良き関係も、おいしいコーヒー作りに影響します。さらに、自分がおいしいコーヒー作りに神経を使っているもうひとつのこだわりはコーヒー用具の洗浄です。コーヒー豆やミルクには脂肪が含まれているので、この脂肪分がコーヒー用具にこびりついてしまいます。そのままで何度も使っていると、コーヒー豆の新鮮な味が落ちると信じているからです。
バリスタを越えたこれからの将来
ニュージーランド・バリスタ・チャンピオンシップに最初に挑戦したのは2003年です。クライストチャーチを中心とした地区の予選で48人中10位でした。2004年は、地区で1位、ニュージーランドの全国大会に初出場して3位でした。その後は、2006、2008、2010年と出場し、連続して地区で1位、全国大会でも1位で、一年おきにニュージーランド・バリスタ・チャンピオンシップを獲得しました。今年は、ロンドンで開催されたWorld Barista Championship 2010に参加したのですが、54人の出場者で17位でした。カフェを経営して3年になり、ナショナルチャンピオンシップも数度獲得し、ニュージーランドのバリスタとしては一応成功したと思います。ですので、バリスタ・チャンピオンシップ出場はもう終わりにしようと思っています。カフェ経営をしばらく続け、それと共にコーヒー業界の違った分野にチャレンジしていきたいからです。それは、カフェをもう少し大きくすること、世界中のコーヒー豆生産国に行って、コーヒー園の経営者との直接のコミュニケーションで、豆の質の向上に関与すること、豆のローストもしてみたい。さらに、コーヒー作りの後継者へのサポートと養成、コーヒーマーケティング、とすべてコーヒー関係です。自分の人生のキャリアはコーヒー以外は考えられないのです。