ガイドブックなどでもお馴染みのシーフードレストラン、Palazzo del Marinaio。他にも多数の事業を営む実業家でありながら、オーナーシェフGorgさんの持つ料理への愛情と情熱は、開店以来28年を経た現在でも色あせることはありません。新鮮な素材へのこだわり、食の大切さについてGorgさんにお話をうかがいました。
【Profile】 GORG SPITERI / Palazzo del Marinaio owner chef 1947年マルタ島生まれ。1977年にニュージーランドに移住し、シェフやホテルのマネージャーなどを経験した後、1982年にPalazzo del Marinaioを開店。以来28年に渡り、クライストチャーチ随一のシーフードレストランとして幅広い客層から支持を集めている。現在も自ら仕入れに出向き、厨房にも立つという現役のオーナーシェフ。 |
味覚のルーツは地中海
私の父は地中海にあるマルタ共和国の出身、母はイタリアのシシリー島出身で、私自身はマルタ島で生まれ育ちました。国が違うとはいえ、マルタ島とシシリー島は100km足らずしか離れていないので、ほんの隣同士といった感じですし交流も盛んです。90歳を超えた母は今でもシシリーで暮しているので、私もこのところ冬場はニュージーランドを脱出してシシリーで過ごす、という生活をしています。あちらには親戚が総勢100人ぐらいいますから、みんなが集まるとそれはそれは賑やかになりますね。
マルタやシシリーは伝統的に漁業が盛んな島です。ヨーロッパのクリスマスは肉料理で祝うのが一般的ですが、マルタ島でクリスマス料理といえばマグロや鯛など魚がメイン。私の家族も水産業に携わっているので、学生時代から私も仕事を家業を手伝っていましたし、今でもマルタとは公私共に深いつながりがあります。こうしてシーフードのレストランを営んでいるのも、育った環境が大いに影響していると思います。
大事なのは毎日変わらず店を開けること
イタリアに渡って学業を終えた後、バチカンでシェフとして働きはじめました。教会で大量の食事を作るというのが、私にとって最初の仕事です。その後ロンドンやヨーロッパのレストランで経験を積み、見聞を広めようとニュージーランドにやって来ました。当初はフレンチのシェフをしていたのですが、ハンマースプリングスのホテルで飲食マネージャーとして勤務したこともあります。そして数年後、クライストチャーチ郊外のサムナーに小さなティールームを開きました。これが初めて持った自分の店ということになります。
Palazzoのオープンは1982年。以来28年間にわたって同じ場所で営業しています。レストランというのはいつ行っても同じようにオープンしていることが重要だと思っているので、休業日を設けたり営業時間を変更したりすることなく、ずっと変わらず店を開けています。長く続けてこられたのには、顧客に恵まれたということも大きいですね。会社や団体単位で長年付き合って下さっている方々も多いですし、イタリアの南極観測隊が毎回必ず立ち寄る店でもあります。またリピーターの方が多いのも特徴で、初めてのお客様が帰り際には次回の予約を入れてくださる、ということもあって、そんな時はとても嬉しいですね。ちょっと意外かもしれませんが、この店にもっとも足繁く通って下さっている常連客は、食材の仕入れ先の方々でもあるんですよ。自分たちが供給した食材が満足いく形で使われていなければ、こうして頻繁に店を訪れてくださることもないでしょうから、これは大変光栄であると思っています。
真のシーフードレストランとしてのこだわり
当店でもっとも人気のあるメニューは、今も昔も変わらずロブスターとオイスターです。シーフードは鮮度が命なので、毎日連絡をもらって仕入れに向かい、自分の目でしっかり見極めて選びます。素材がよければ凝った調理法は必要ありませんから、Palazzoでは新鮮なおいしさを活かすために魚の調理はグリルかスティームが基本で、揚げ物は一切ありません。地中海で獲れるものに比べると、ニュージーランドの魚は身に含まれる塩分量が少ないので、味が淡泊になりすぎないよう工夫しています。このように鮮度や調理法に気を配った上で自信を持ってシーフードレストランと名乗れるのは、クライストチャーチでPalazzoだけではないかと自負しています。
またその他の食材についても、国内でどうしても手に入らない特別なものを除いて冷凍ものは使わない、上質のオリーブオイルを使用する、パスタやパンも手作りにするなど、徹底的にこだわっています。「You are what you eat」 (あなたの身体はあなたが食べた物でできている) というのが私の持論で、吟味された食材というのは健康な身体と心を作ると思っています。逆にジャンクフードばかり食べている人を見ると、心までとジャンクな人間になってしまうのではないかと心配になってしまいますね。
技術だけでなく心も伝えたい
現在は他にもいくつか事業を行なっていて非常に忙しいので、なかなか仕事を忘れてゆっくりくつろぐというわけにはいきません。と言うよりむしろ、自分の中ではあえて仕事と私生活の区別を付けずにいるように思います。根っからの仕事好きなのかもしれませんね。中でもレストランは常にメインの事業として頭の大部分を占めています。Palazzoは開店以来ずっと、共同経営者も持たずに私1人でやっていますから、それだけ愛情と情熱を注いでいる仕事でもあります。
今後はシェフとして若い人たちのためにアンバサダー(大使)の役割を果たしていきたいと思っています。今も店では厨房に立つのですが、これは調理をすることだけでなく私の姿を見て学んでもらうのも目的。シェフとして成功するには人間として実にさまざまな要素が必要で、料理の技術などそのほんのひとつに過ぎません。どこのレストランでも同じですが、修業中のシェフたちは毎日目の回るような忙しさの中で、追い立てられるように働いています。本来なら時にはリラックスしてもっと周りを見ることも大切なのですが、そんな余裕がないのも実状でしょう。ですから私がなんらかの形で、こうしたことを少しずつでも若い人たちに伝えていけたらと思っています。最後にパスタをおいしく食べる秘訣をひとつ。自分が頼んだ物がサーブされたらすぐに食べてしまうことです。他の人の料理が揃うまでお行儀よく待っていたら、火が通りすぎてしまいますからね。一番美味しいアル・デンテのうちに召し上がれ!