今ニュージーランドの美容業界の中で、30年以上に渡り常にオピニオンリーダーの役割を果たしてきたゲイル・トンプソン。 ヘア・ドレッサーを経て、美容総合学校を経営している彼女は、生徒に「経験」させることで、実践につながるスキルを身につけてもらうことが大切だと考えている。そんなcut above academyは現在、約400名の生徒たちが通う人気校として注目を集めている。
![]() ウェリントン生まれ。ヘア・ドレッサー従来の師弟制度を学校と言う形に換え、経験を大切にした教育が信条。トレンドを感じることの重要さを考え、毎年、講師陣をロンドンに送り、最新の情報や感覚を学校の中にも取り入れている。ヘアサロンをオープンした当時は76時間の連続労働記録を作り、ギネスブックに登録された事もある。 |
ヘア・ドレッサーからのスタート


私がヘア・ドレッサーの道に進んだのは、生まれたウェリントンのサロンで働き始めた16歳のときでした。ファッションやメイクなどに興味がある年頃でしたし、ごく自然に仕事を始めた、という感じでした。
そして21歳で自分の店をオープンさせました。このときはオークランドに移っており、エプソンでヘアサロンを始めたのです。結婚して子供を産み、2年くらい育児のために仕事を離れましたが、再びカムバックし、そして1973年にローン・ストリートに今の学校の礎となった『cut above』という名前のサロンをオープンさせました。
この店舗は、建物の1階はレディース、2階はメンズ、そして3階がユニセックス・サロンとしてオープンさせました。ユニセックスのサロンはニュージーランドでは初めての試みだったと思います。
そして、1993年にcut above academyをスタートさせました。それまでの美容業界では技術を取得し一人前の美容師になるために、個々の美容院に弟子入りし、徒弟制度のような仕組みの中で訳も分からずとにかく働かされる事があたりまえでしたので、美容学校という試みはまったく新しいものでありました。
まだ、誰もやっていないこと

cut above academyはヘア・ドレッシング、メイクアップ、ビューティーセラピー、特殊メイクの4つの部門から成っています。どれも、「今」というときに、欠かせないセクションだと思っています。私が大切だと思っていることの一つには、いかに、「今」に対応するかということです。ファッション業界を全体で見た場合、そこにはかならず、横のつながりというものがあり、お互いに影響しあっています。生徒たちの卒業後のことを考えれば、勉強しているときから、このつながりを作っておくことは実際の仕事をするときに大きなアドバンテージになります。
たとえば、ヘアとかメイクの生徒はすごくクリエイティブな人間が多いですし、ビューティーセラピーではアカデミックな感じの生徒が多いのです。実際の現場では、こういった異なる気質をもった人間同士が一緒に働くのですから、学生のときからこうした環境にいることはとても重要なことだと思います。そのために、4つの部門を設けてあるのです。各部門は実社会では、それぞれの協会を持っていますので、学校も各分野に特化している場合が一般的です。こうして一つの学校に各部門が揃っているのは、おそらく南半球ではcut above academyが最大規模なのではないでしょうか。
経験から得られるもの

アカデミーを経営するにあたって私が大切だと考えていることの一つに、「実際に経験することが必要だ」ということがあります。先ほど言いました、他の部門の人と交流することも、もちろんその一つです。しかし、その前に、実際のクライアントに接するということが最も重要です。そのために、学校では授業の半分で「経験」をさせています。
学校が実際にヘア・サロン、ネイル・サロン、ビューティ・セラピー・サロンを運営し、一般の人に来店していただいています。ここで生徒たちは本物のお客さまを相手に「経験」を積むことができるのです。「あっ、ちょっと待って」という言葉が使えないお客様に施術をするのと、学校内で、あるいは自分の友人など、お互い知ったもの同士で、経験を積むのとは格段の差が出てきます。これは単に知識とか、技術とか、資格とか、そういったもののために勉強するのではない、将来の仕事をするために勉強をしているんだという意識を常に持つこともできるのです。

メイクの部門では実際のショーの現場にも立ちます。これまでにファッションウィークをはじめ、『キャッツ』や『美女と野獣』などの舞台のメイクなどにも関わってきました。これは生徒には少し厳しい場ではありますが、経験としては最高の場です。なにしろ相手は本物のモデルさんや役者さんです。求められるレベルが高いですし、独特の緊張感があります。しかし、こういった場をクリアーできない限り、生徒たちに実際の仕事を得る機会はないと思っています。
これらもまさに「今」に対応していることだと思います。なぜなら、モデルさんが求めているのは「今日」出演するためのメイクであり、ヘアサロンに来るお客さんが求めているのは「今」外に出て街を歩くためのヘアスタイルだからです。トレンドは勉強して頭に入れるだけでは使いモノになりません。実際に接して、感じてこそ、自分のモノになるのです。
もう一つの経験

▲特殊メイクコースの学生が作ったかぶりもの。パーティーでもかぶったことがある。
アカデミーがサロンを運営しているのは、なにもトレンドを感じたり、技術を得るだけが目的ではありません。生徒たちには受付や会計業務も担当させているのです。つまり、経営的なセンスも同時に養ってもらっているのです。実はこれもとても重要なことだと考えています。先ほど、私は21歳でヘア・サロンをオープンさせたと言いましたが、この話をすると「そんなに若いのにどうやって?」と驚かれることがあります。ヘアドレッサーをスタートした年齢が若くそれなりの経験もあったので、皆さんが気になることは、技術的な部分よりも、サロンのマネージメントの部分や、オープンさせるにあたっての資金の面などがあると思います。ファッション業界に携わる人の中には、この部分に無頓着な人もいますが、仕事をするにあたっては避けては通れないことです。いくらトレンドを理解して、技術があっても、それを生かす場を作れなければ、なんの役にも立ちません。生徒たちには、この場を作りだせるようになって欲しいのです。これもやはり経験することが大切なのです。

私自身はすでに美容師は引退しましたし、講師として教壇に立つ事もなく、私の仕事は学校の経営だけです。ですから直接生徒たちに「教える」事はしないのですが、アカデミーで生徒たちと顔を合わせる時にはできるだけ声をかけるようにして、生徒たちが感じている事を経営に反映させる事にしています。私は、今後もこういった経験することを大切にしたプログラムを多く提供していきたいと考えています。もちろん、NZQAの資格とかCIDESCOといった国際資格ももちろん取得していきます。そして、来年度からはオークランドの南、マヌカウ地区に新校舎をオープンさせます。ひとりでも多くの即戦力をファッション業界、ビューティー業界に送り込むことが私の使命だと考えています。