現在、ノースショアシティ・カウンシルの交通課でトランスポート・プロジェクト・エバリュエーターをしている坂井香奈さん。シティカウンシルは、ニュージーランドでキャリアスタートにはベストな場所だという彼女。そんな彼女にシティカウンシルの仕事獲得までとそこでのお仕事について教えていただいた。
【Profile】 1978年生まれ。三重県出身。大学では経済専攻。在学中はボート部に所属。その後、ソフトウエア会社で1年間働く。イギリスのヨーク大学の大学院で環境経済を学ぶ。2005年より、交通政策コンサルタントとして活躍。2006年10月に結婚。2007年2月、ノースショアシティ・カウンシルの交通課で働く。同年10月、永住権取得。2002年と2005年にニュージーランドの南島と北島を自転車で旅する。 |
カウンシルの交通課で便益分析
もともと自転車で外国を旅行するのが好きで、大学4年生の時に2週間ニュージーランドの南島を自転車で周ったんです。今から6年前のことです。ニュージーランドは安全な国だなと思って、最初の印象がとても良かったんですね。
大学卒業後は、一年間就職し、その後イギリスのヨーク大学の大学院で環境経済の勉強をしました。その中で交通経済学を学び、帰国後から交通政策コンサルタントとして働いていました。その仕事が、現在の仕事に繋がっているのです。以前の仕事の内容は、国土交通省が政策を考える時の理論武装の補助や背景理論の整理、統計処理、海外の事例収集で、その中で費用便益分析と言う、工事にかけた費用に対してどれだけの利益や利点が見込めるかという分析の事です。現在、私はノースショアシティ・カウンシルでトランスポート・プロジェクト・エバリュエーターという仕事をしているのですが、その費用便益分析をするのが仕事なんです。簡単に言うと、コストと便益を計算して、交通関係のプロジェクトの経済効果を評価するということです。たとえば、ノースショアの自動車プロジェクト、バス優先プロジェクト、道路拡幅プロジェクトなどのコストと便益を算出して、コストに対して便益が大きければ、経済的に効率が高いということで、そのプロジェクトは優先的に補助金が貰えるのです。ですので、コストと便益を計算することが必要なのですが、どのような工事が必要でコストがどのくらいかかるというようなことは、エンジニアが算出します。そして便益を計算するのが私の仕事です。便益計算には、道路を広げると自動車の速度が上がり旅行時間が節約できることからの便益、渋滞が軽減されることからの便益などで、それぞれで節約されたものをニュージーランドの基準に基づいて対価に換算するのです。他にも事故や燃料消費が減った便益の計算などがありますが、このような便益の計算を専門的に行っています。
面接と言葉のハンディの克服法
日本で交通政策コンサルタントとして2年間働いた頃に、どこかの国で永住権を取りたいと考え始めました。冒険が好きなので、以前のように自転車で海外を周ることができればいいなと思って、長期休暇の取れる国で働きたかったのと、英語環境で働くというチャレンジがしたいと思いました。それで、インターネットの求人サイトSEEKを使って、日本から私のしていた業務に関係する仕事を探しだし、5つの会社に履歴書を送付しました。そうしたら、このノースショアシティ・カウンシルから面接のオファーがあり、ビデオ・カンファランスで面接をすることになったのです。
面接では、面接官が2人いたのですが、訛りの強いスコットランド人の面接官の言っていることがまったく理解できなくて。それで、会話は成立しなかったのですが、前日に用意をした内容を喋るだけ喋ってしまえ!と思って、言うだけ言って面接を終えました。はじめての挑戦なので練習だと思って面接に挑んだし、そのように会話にならなかったこともあって駄目だと思っていたのですが、幸運にも採用になりました。
2007年2月末にニュージーランドに来て、ノースショアシティ・カウンシルで働きはじめましたが、やはりはじめはキツかったですね。いちばんの問題は英語。ミーティングでは、みんなが討論しているポイントがすぐに分らなくなったり。初めの頃は、私がメインで行うミーティングの前日から胃がキリキリしていましたね。それに、ジョブ・ディスクリプションの内容と私の能力とにかなり差があったので、毎日、ビクビクしていました。日本では、みんながジェネラリストですし、私も費用便益分析を専門的にしていたわけではなかったこともあって、費用便益分析の専門家としてこちらで扱われることにとまどいがありました。また、日本ではトップダウンで仕事がおりてくるのですが、こちらではコミュニケーションの中から仕事が生まれてくるので、英語のコミュニケーションに対して消極的な私はなかなか仕事が回ってこない時期もありました。
半年くらい経った頃から、仕事もずいぶんこなせるようになってき、落ち着いてきましたね。それからは、そんなにビクビクする必要はないと考えるようになりました。たとえば、私は、いろんなプロジェクトに属しているのですが、プロジェクトには常に広範囲のステークホルダーがおり、どこかに問題がおこると、頻繁にそのプロジェクトが止まるのですね。そういう問題と比べると、英語が下手でコミュニケーションに時間がかかるということは大したことではないと思うようになったからです。また、少し自信が付いてくるとコミュニケーションにも積極的になり、そこから仕事が生まれて、また自信になるというよい循環も生まれてきました。
キャリアスタートに最適な場所
ノースショアシティ・カウンシルの交通課には、約100人の職員が働いていて、男性の割合が多いですね。交通課の半数以上が外国人で、イギリス人と南アフリカ人が多く、ほかにスリランカ人、インド人、マレーシア人などがいます。ニュージーランドは人口に対して、交通課の職員数が多いようです。たとえば、ノースショアシティの交通課は、人口20万人に対して、職員が100人ですが、日本だと人口20万人に対して、職員は25人くらいと言われています。このような環境の中で働いていますので、働いていて日本との違いも感じています。たとえば、2時間のミーティングには、ティーブレークがあって、ミーティングがゆったりとした感じであること。でも反対に、顔を真っ赤にして怒鳴りあうシーンを見ることもよくあり、ミーティング中に喧嘩も多いのも違いでしょうか。仕事で助かるのは、レポートの文章を確認して、英語の文章を訂正してくれる担当がいること。ある程度の英語力は必要ですが、言いたいことを明確に伝わるように書いておくと、修正を要する場合は、その担当者が直してくれるのです。
カウンシルは職員がとても保護されていて、トレーニングも積極的に行ってくれますし、キャリアをスタートするのに適した場所だと思います。この仕事を始めたときに自分の能力と求められている能力との差がありとまどっていました。しかし、差があることを認めてくれて、必要なトレーニングを自分から要請すれば受けさせてくれる度量がカウンシルにはあります。外国人向けの英語のトレーニングもあります。ニュージーランドのカウンシルで働きたい方で、会話はある程度できるけどビジネス英語のレベルではない人や、ジェネラリストで何かの専門家でない人もいるかと思いますが、とりあえず履歴書を送ってみることをお勧めします。履歴書の書き方によって、かなり見栄えが違ってくると思うので、履歴書もとても重要だと思います。面接は当たって砕けろの精神でやるしかないでしょう。また、ジョブ・ディスクリプションと自分自身の能力に差がかなりあっても怯まないでください。そして、オーストラリアとニュージーランドはプロフェッショナルな人材が不足していて、ノースショアシティ・カウンシルも人がずいぶん足りていないのが現状です。ですので、今が仕事を得るチャンスだと思います。
私は2年前に結婚し、主人は日本にいて別々に暮らしているので、現在の仮の永住権が正式なものになったら、主人のところに戻ろうと思っています。そして、交通関係の仕事をずっとしていたいですね。主人が国際協力関係の仕事をしているので、発展途上国に行く可能性もあるので、一緒にどの国へ行っても、英語の環境で交通関係の仕事ができるように、これからもスキルを磨いていこうと思っています。