英語の最初の壁を破るための我慢。どこまで我慢をするかによって一歩踏み出すことができるかどうかが決ってくる。高校では英語は苦手科目、音楽と体育が得意だった大輔さんはニュージーランドの仕事という環境のなかで英語を習得していったと語る。
| 伊藤大輔 :Daisuke Ito 英語の勉強は机の上だけではありません 75年生まれ。東京都出身。高校卒業後すぐにワーキングホリデーでニュージーランドへ。前職ではクライストチャーチ、クイーンズタウン、オークランドと3都市で旅行業に携わる。現在務めている健康食品の開発会社AOTEA Pacific Ltdでは主に出荷、在庫の管理を行うかたわら、製品の臨床実験をドクターに依頼し、データ集めをする。ホームページはwww.aoteapacific.co.nz またはwww.aotea.com |
当初の英語
初めてニュージーランドに来たのは94年です。高校を卒業した年の6月でした。オークランドの空港に到着した私が最初にすべきことは決っていました。それは今夜泊まる場所を探すことです。インフォメーションセンターを探し、その日の宿の相談をしました。どのような言葉を使ったかは覚えていませんが、今になって考えれば、私の英語がよく通じたものだと思います。
高校を卒業したばかりの私の英語力はHelloとかGood Morningが言える、わかる、という程度でした。それでもワーキングホリディで海外に出てみようと飛行機に乗ったのです。目的地をニュージーランドにしたのは、当時私の周りではオーストラリアやカナダへの渡航経験がある友人はたくさんいたのですが、この国にはまだ誰も行ったことがなかったのです。どうせ行くなら誰も知らない国がいいというストレートな発想でした。
結局、四苦八苦の末、一泊4ドルというバックパッカーを紹介してもらいました。破格の宿泊料なのですが、まだニュージーランドに着いたばかりで、この国の貨幣価値も把握していなかったため、4ドルが安いのか高いのかもわからないままシャトルバスに乗っていました。そして、到着したところはオークランドの街のド真ん中。私はそこでいろいろなことに驚いてしまいました。
まずは外観が恐ろしくボロボロなこと。部屋はまるで牢屋みたいなこと。与えられたのがベッドひとつ分のスペースということ、そしてそのベッドにはシーツや毛布さえもなかったこと。私の頭の中では宿イコール寝具が用意されていると想像していたのです。
今となっては、どれもこの国では理解できることです。ただ一つだけ疑問を抱えたままのことが、一泊4ドルの宿泊料で、デポジットが5ドルということです。その理由を聞く英語力が当時はまだありませんでした。
その後、ホームスティをしながら英語学校を探していました。ところがそのスティ先で出会った方が仕事を紹介してくれることになり、私はクライストチャーチに移り旅行会社で働くことになったのです。
英会話の壁を破る(Speaking, Listening)
初めは山岳列車トランツアルパイン号で高原を走るツアーにお客様を案内するガイドの仕事でした。
お客様に少しでも楽しんでもらうために、会社の先輩に話を聞いて、コメントを一つでも多く覚えようとしました。たまには失敗もしました。お客様が同姓同名だったため、私が本来、担当していない方をバスに乗せてしまったこともありました。そういった中で、私の英語力は相変わらず、宿泊料が4ドルなのになぜデポジットが5ドルなのか聞くことができないレベルから脱していませんでした。行程表通りに事が進む分には何も問題はありません。バスに乗れば黙っていてもドライバーはアクセルを踏んでくれますし、電車のトレインマネージャーに切符を渡せば座席を教えてくれます。羊の毛刈りショーでおじさんが言うことは昨日と同じですし、きっと明日も笑うところは同じです。
ところが、突然変更になったルートをドライバーに伝える。お客様の人数と電車の切符の枚数が違っている。毛刈りのおじさんがいつもとは違うギャグを言う。そんなハプニングが次から次へと出てくるのです。
その対応はいつもドキドキしていました。ドライバーは俺に任せろと言って取り合ってくれない、トレインマネージャーには切符がなければ乗せられないと言い張られ、毛刈りでは私のお客さんだけ笑うポイントがずれてしまう。こういった瞬間は逃げ出したい気持ちでいっぱいになります。しかし、本当に逃げ出すわけにはいきません。このままでは周りに迷惑がかかる、それにドキドキしてばかりいると私自身も参ってしまうと思いました。すると英語をもう少しなんとかしなければという気持ちが起こってきたのです。しかし、机に向かって勉強をするというのはどうも性に合いません。
そこで私は徹底的にキウイに話しかけることにしたのです。仕事で少しでも関わった人たちに声をかけました。ドライバーにはいろいろと質問をして街のことを聞いたり、電車の中では僅かな時間でもトレインマネージャーのところでコーヒーを飲んだりしました。相手が話す言葉を、注意して聞き、それを一言一句そのまま使うようにして、発音もそのまま真似をしました。
ところが、それは英語力が上達するという効果にすぐにつながりませんでした。それよりも、私自身がお客様に話すコメントの量が急激に多くなりました。地元の人たちと話をすることによって、ローカルの情報がいっぱい入ってくるからです。同時に、ツアーをサポートしてくれるドライバーやトレインマネージャーや毛刈りのおじさんたちに名前を覚えてもらい、信頼されるようになりました。困った時には助けてくれる存在になってきました。
こうして、仕事が楽しくなってきたときです。急に相手の言っている英語が聞き取れるようになりましたし、私が言いたいことがスムーズに通じるようになりました。
話が通じるようになると、今度は逆にわからないことが素直に聞けるようになりました。それからは英語の中でドキドキしないで、普通に仕事ができるようになりました。
相互理解の英語(Writing, Reading)
次に私はお客様のトラブルに対処するカスタマーサービスに配属されました。急病やケガのお客様を病院に案内もしますし、お風呂の水を溢れさせてしまった方もいました。クイーンズタウンのホテルでは、窓から湖が見える部屋という解釈がお客様とホテル側との間で違い、双方にその説明をするのに苦労したこともあります。夜中の2時に電話が鳴り、「明日、バンジージャンプに行くのですがどんな靴を履けばいいのですか」と質問されたこともありました。
ガイドをしているときは、英語で私がドライバーに質問をする、それを相手が答えてくれる。あるいは、キウイが話すのを聞き、日本語でお客様に伝えるといった、どちらかというと、一方通行的な会話が中心の英語でした。
しかし、カスタマーサービスのポジションでは話し合いをして、こちらの要求や相手の要求をお互いに理解することが重要になってきます。また会話だけでなく、書面でのやり取りが頻繁に出てきました。今度、こういったツアーが来るのでこういった手配をお願いしますとか、あるときはお礼やお詫びの手紙だったりもします。
先にも言いましたが、机に向かうことが嫌いだったため、英文を書くことは苦手でした。口語を文章にしてしまうと、ビジネスレターとしては失格になります。できあがった文章を隣に座っているキウイに見せてチェックをしてもらい、書くことを習慣付けるために些細なことでも書面にするように心がけました。
私のポジションはホテルやオプショナルツアー会社などのサプライヤーとお客様の間に入ってバランスを取ることです。両方に気持ちよく仕事をしてもらう、旅行をしてもらうためにはマメにコンタクトを取ることが大切だということはガイドの時に十分に勉強しましたので、苦手であっても筆を取るようにしました。
文章でも、会話と同じように真似をしていました。まず、パターンを増やすために、いろいろなものを読むのです。雑誌とか新聞といったものではなく会社に送られてくる新製品のお知らせとか、新価格の通達といったダイレクトメール的なものです。そういったビジネスレターを読んで、気にかかる文はワープロで打ち、ファイルに落とし込んでいきました。最後にはフロッピー2枚分ぐらいになり、必要な時に引っ張り出して、そのフレーズを使っていました。
現在の英語
現在はオークランドで健康食品の開発会社に勤めています。そこでは癌にならないサメの特性を生かした抽出脂質や出産後間もない免疫力が高い牛の乳のサプリメントなどを扱っており、開発はオタゴ大学の研究所が行っています。それに付随して、クイーンズタウンに現在建設中のビレッジの中の病院にも関わっています。補完代替療法という手術や投薬をしない治療法をこの病院で取り入れるに際して、私たちの製品が取り扱われることになっているからです。
ここでは、これまでとは違い、新生血管Anjeo Genesis や、初乳Colostrumなど普段の生活では使われない専門用語が仕事の上でよく使われます。ドクターから送られてくる臨床実験の書類や、出荷の書類にもそういった言葉が使われています。また、サプライヤーやディストリビューターとの交渉の中にも出てきます。このような専門用語を覚えていくことも重要なことです。
しかしなにより、人の体に関わってくることですから、ただ単に相手に理解してもらうだけでなく、これまで以上に慎重に言葉を選ぶ必要があると感じています。今までを振り返り、英語に関しても仕事に関しても、やっとスタート地点に立ったと思っています。
今の仕事では、宿泊料が4ドルなのになぜデポジットが5ドルなのかという理由を聞くだけでなく、その理由の根拠を聞き出し、それを正しく説明することが必要になっています。そのためにも、さらに勉強していきたいと思っています。
伊藤大輔さんの英語上達ポイント
1. 仕事という逃げられない状況下に自分を追い込む
2. 僅かな時間でもネイティブに話しかける
3. 通じるようになれば、わからないことを素直に聞くことができる
4. ビジネス文章はダイレクトメールを応用
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