Vol.28 時代を飾るキウイ シェフ・料理ライター Peta Mathiasさん


「ニュージーランドにはもともといい食材はあったが、いい料理人がいなかった」と言う決まり文句はもう過去のもの。
今ではニュージーランドで食べる料理のレベルは世界のどの都市と比べても引けを取ることがなくなった。ニュージーランドの料理人のレベルを上げ、それを食べるニュージーランド人の食への関心を高めるのに大きな功績を残しているのが、料理と旅行に関する著作を7冊出版し、テレビ番組「Taste New Zealand」でプレゼンターも務めるペタ・マセイアスだ。茶髪で奇抜なヘアスタイル、ヴィヴィッドな色のファッションでインパクトを放つキャラクターは、一度見ただけで記憶に残るほどだ。
テレビに登場するようになったのは、元来シェフであり、ライターで、そのうえ、人前で歌も唄えるという、技術、知識、度胸を兼ね備えていたからだと言う。
「Taste New Zealand」はニュージーランドの食の世界を紹介するだけではなく、自ら海外に出かけ、食材の話題やシェフやレストラン経営者へのインタビューなど、海外の食情報も積極的に紹介している。現在はアジアと環太平洋の食に注目しており、近いうちに日本にも行き、ニュージーランド料理にも影響を与えた日本食を徹底的に極めたいと思っている。

シェフ・料理ライター/Peta Mathiasさん
Peta Mathias
ペタ・マセイアス
シェフ、料理ライター、TVプレゼンター / Chef、Food Writer、TV presenter

オークランド生まれ、育ち。オークランドのセントマリーズ・カレッジを卒業。看護婦、カウンセラーを経て、カナダ、イギリス、フランスでなど海外で16年間過ごし、1990年にニュージーランドに帰国。1996年からチャンネルワンで「Taste New Zealand」の放送が始まり、今年で9年目。最新の著作「Noodle Pillow」を出版し、ベトナム料理、旅行記を紹介している。

料理学校には行ったことがない
いつでも、どんな時でもいい料理を作ろうと努力していた。

私は子供6人の大家族に育ったものですから、自然と母親から料理を習い、自ら料理をするようになりました。学校を卒業してすぐに看護婦になりましたが、どうしても好きになれず、辞めて海外に行きました。まず、カナダで看護婦の経験を活かして、ドラッグやアルコールの中毒患者の更生施設でカウンセラーとして働きました。そして、カナダにいる間にホリデーで一年間ロンドンに滞在し、シェフとして働きました。合計6年間のカナダ滞在のあと、立ち寄ったパリが気に入り、シェフとして10年間滞在しました。最後の3年間は自分の店「Rose Blues'」を持ちました。
30歳まで、プロとして料理を作ったことはありませんでした。しかし、料理は毎日のように作っていましたし、いつでもよりおいしいものを作りたいと思っていました。もともと人をもてなし、楽しませたいという気持ちが強かったのです。私の作った料理を食べてくれる人への感謝と愛情をいつも感じながら料理を作っていました。
私は今までに料理学校に行ったことがありません。母親から習った、見様見まねの料理が私の料理のベースなのです。ですから、ロンドンやパリでシェフとして働くために料理本を大量に買い込み、さまざまな知識を貯えていきました。その当時は料理本を買うのが止められないほど、料理本を読む欲求が強かったのです。
16年海外に住んだ後、1990年にニュージーランドに戻ろうと思いました。帰ってきてみると自分が生まれ育ったオークランドはこんないい街だったのかと驚きました。適度に都市化が進み、きれいだったからです。その時に今度は腰を据えて住んでみたいと思いました。
カフェのシェフとして働きながら、10年住んだフランスの生活やお客さんに出した料理のレシピを紹介した最初の著作「Fete Accomplie」を出しました。料理と同じように、特に文章も書き方を勉強したわけではありません。文章を書こうとしたというよりも、レシピを載せたクッキングブックを書きたいというのが最初の動機でした。それまでにクッキングブックはたくさんありましたが、ニュージーランド人が生活したフランスでの体験も盛り込まれていたところが良かったのかもしれません。よく売れたのです。そこで版元がもっといろいろ書いて欲しいと言ってきて、ベトナム料理のレシピ、旅行記を紹介した最新の「Noodle Pillow」まで、現在7冊の著書があります。

トラベル・フードショー
最初の著書がテレビ出演のきっかけとなった。

最初の著書「Fete Accomplie」を発行し、カフェのシェフとして働いていた1996年、テレビジョン・ニュージーランドから料理番組をやるのでぜひオーデションに来てくれと突然電話が入りました。本は書いていましたが、まさかテレビにプレゼンターとして出演するなど、思ってもいませんでした。今までに料理番組はニュージーランドにもたくさんありました。しかし、「Taste New Zealand」はそれまでになかった、旅行の要素も取り入れ、観ている視聴者が実際に旅行して、食事をすることを前提に番組作りをしています。一言で言うと「トラベル・フードショー」と言えるでしょう。実際にその場所に行って、料理に関するあらゆる話題、例えば、食材の生産者と流通業者、シェフやレストラン経営者などへのインタビューは実に興味をそそられます。常に新しい発見があり、知識として得るものも多いのです。私自身が楽しんで収録をしているほどです。
「Taste New Zealand」は今年で9年目を迎えることになります。世界でもこれほど長くシリーズ化している料理番組は珍しいと思います。今ではイギリス、シンガポール、香港でも放送されるようになりました。人気の理由はニュージーランド人が今までになく、旅行をするようになってきたからだと思います。旅行をするに伴い、そこで食べた料理が食への興味をそそるわけです。
さらに、ニュージーランドに住んでいるだけでも、食への興味は湧いてきます。多くのアジア人の移住によって、新しい食文化が紹介されてきたからです。特にシーフードは今後ますます、注目されるはずです。今年の半ばにオークランドのアメリカズ・カップ・ウィレッジの近くにオープンするニュージーランド初の魚市場はその原動力になると思います。

ニュージーランド料理とは?
ニュージーランドのシェフは新しい事への挑戦を恐れない。

ニュージーランドは新しい文化の国です。もっと世界中からいろいろなものを吸収しないといけないと思います。食の世界ではまさにその真最中です。ちょうど世界の食のトレンドも各国の料理のエッセンスをミックスしたヒュージョン料理なのです。
しかし、ヒュージョン料理だからと言って何でもミックスすればいいと言うものではありません。ヒュージョン料理はおいしくないのが普通です。しかし、本当に良く考え抜かれたものは大変おいしくなります。現在、ニュージーランドのシェフはヒュージョン料理を研究しています。今までの料理のルールを破る事を恐れず、あらゆる料理をミックスし、いろいろな挑戦を続けています。
そうやって出来たニュージーランド料理の一例は、オークランドで言えば、近海で獲れた鯛をグリルし、マッシュポテトをその下に敷き、グリーンサラダを添えて、醤油ベースのソースで食べる環太平洋料理を指します。また、南島クライストチャーチでは、また違ったものを指します。ラムをローストし(中はピンク色で)、湯がいた青梗菜と焼いたトマトを添え、東南アジアの甘辛ソースで食べる昔のニュージーランド料理に各国のエッセンスを加えた料理を指します。
ですから、下手にミックスするととんでもない料理になりかねません。しかし、このニュージーランド料理は海外で成功している例も多いのです。ロンドンではキウイ・フュージョン料理と呼ばれ、私はロンドンの友達に「ニュージーランドではこんなおいしい料理を食べているのよ」と言うと、みんなが驚きます。

スローフード
単に「ファーストフード」の反対を意味する言葉ではない。

私はファーストフードは好きではありません。多くの砂糖、脂肪が含まれているからというだけではなく、効率良く食べていないという理由からなのです。それはライフスタイルとも関係あります。スピードに束縛された生活を送る事を強制され、味覚を後回しにし、画一化された食べ物、飲み物を口にする事が増えた事への反対運動がスローフード運動です。
私はイタリアに本部のあるスローフード協会の会員です。しっかりと腰掛け、ワインを飲み、食材と料理への感謝の気持ちを忘れず、会話をして、いい時間を過ごす事がスローフードを実感する事だと思います。さらに、ファーストフードのために作り過ぎている食材にも警鐘をならさねばなりません。しっかりと食べる事は生産者も助ける事になるのです。
私がニュージーランドで最も好きなレストランはウエリントンにあるイタリアンレストラン「マリア・ピアス・トラットリア」です。シェフのマリアはスローフード協会の会員でもあるからです。パスタ、パン、ソーセージなどすべてが手作りで非常にレベルの高い料理を出します。
また、ニュージーランド料理のお勧めは高級ロッジのレストランでしょう。さらに、ワイナリーのレストランでもいいと思います。
私はスローフードを推進する立場にありますが、脂が大好きです。おいしい食材は脂を含んでいます。いい肉もいい魚もおいしいといわれるものはしっかりと脂を貯えています。よく、脂は身体に良くないといわれますが、食べ過ぎなければいいのです。脂を貯えた肉や魚を食べた時の幸福感と言ったら、スローフードを満喫した時と同じような充実感に包まれます。そして、そんな食材の生産者や提供者への感謝の念も忘れません。

カテゴリ:レストラン/フード
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