Vol.193Career Interview

心理カウンセラー 国重浩一さん

経験から見えてくる夢がある カウンセリングで人を助けたい 駆け抜けてきた道の中 いつもきっかけをくれたのは人でした


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国重浩一(くにしげ こういち)さん

 東京都出身。1991年に経験したニュージーランドでのワーキングホリデーや旅行での出会いをきっかけに日本帰国後は准看護師の資格を取得。アルコール依存専門の病院に勤務する最中カウンセリング業界に興味を持って再渡航し、ワイカト大学の修士号を修了させた。2013年には「Diversity Counselling New Zealand(dcnz.net)」を設立し、ナラティブセラピストとして活動中。

退職して語学留学+ワーホリへ

 僕が学生だった当時は特別な家庭に生まれ育っていない限り、海外に長期滞在するということに一般性がない時代。だから興味や憧れがあるからといって実際に行けるわけではなく、普通に学校を卒業して大手企業に就職しました。大学では電子工学を専門に勉強していたということもあり、海上、陸上、航空自衛隊の武器を扱う会社で「ウェポンシステムエンジニア」として4年半ぐらい働いて、仕事を辞めたのをきっかけに海外に行こうと思い立ったんです。
 実際にニュージーランドを訪れたのは1991年のこと。語学留学とワーキングホリデーで、合計約1年半の滞在でした。
 渡航国を選ぶ時にはカナダとニュージーランドで迷ったんですけど、最終的な決定打となったのは当時の趣味だった釣りが気軽に楽しめるというところ。地図を見てみるとクライストチャーチからサザンアルプスまでは150キロメートルもないぐらいだということが分かって、「これなら週末に行けるな」と考えたんです。それが決め手でした。

生涯勉強 医療とカウンセリング

 ワーキングホリデーを終えて日本に帰国してからは、働きながら2年間養成所に通えば取れる准看護師の資格を取得しました。そして改めて就職したのはアルコール依存を専門に取り扱う病院。これが医療的にはとても難しい領域で、数値で見るとアルコール依存から抜け出せた患者の割合は非常に低いということが分かります。「必ず治せます」と謳っている病院は疑ってもいいというレベル。それぐらい敗北の歴史を辿ってきたんです。
 ニュージーランドに行く前と全く別の職種を選んだきっかけは、人との出会いが大きかったように思います。まずはクライストチャーチ滞在中に仲良くなった人がもともとアルコール依存患者だったということ。そして当時は学生ビザからワーホリビザに切り替えるときに一度国から出なければならなかったんですけど、日本に一時帰国をする時に立ち寄ったインドでマザーテレサの施設でボランティアをしているという元看護師の日本人と出会ったこと。特にやりたいこともなかったので手伝わせてもらった時に「こういう世界もあるのか」と感銘を受け、医療業界に飛び込むことにしました。
 アルコール依存というのは、自分自身では気付いていないというケースがほとんどです。だから患者の中には家族や警察に連れて来られたりする人が多い。それでいろいろな人を見ているうちに「アルコール依存を治療できるのは医療ではない」と思うようになったんです。このまま医療現場にいても何もできないと感じて、人の根本に触れることができるカウンセリングというものに興味を持つようになりました。
 もう一度勉強し直そうと思い立ち、すぐに自分が求めている分野を追求できる学校を探し始めました。でも日本にはなかった。だから今度は海外に目を向けて自分なりに調査した結果、ニュージーランドにあるワイカト大学で理想的なカウンセリングのプログラムが開講されているというのを知り、再渡航を決めました。

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交渉の国、ニュージーランド

 僕自身の経歴が少し特殊だったこともあり、英語力の証明は特に必要ありませんでした。実際には日本でTOEFLを受験したりしたのですが、スコアがあまり伸びなくて。それで現地の大学院に通うにあたり、準修士課程(Postgraduate Diploma)の授業を1年間取って予備知識を付けるよう言われたんです。
 それで渡航したはいいけど、学校に通い出してから聞かされたのは、2学期制だったカウンセリングコースの開始時期が2月のみだということ。対して僕が準修士課程を始めたのは7月から始まる後期のタイミングでした。
 これでは1年間の基礎教養を終わらせても次にまたコースが始まるまで半年間も待たされてしまうと思い、この時にはすでに家族もいたので時間を無駄にするわけにはいかず学校に直談判をしたんです。結局その時点での成績を提出して教科の責任者との面接の中で交渉した結果、次の学期から早速大学院に通えることになって。結局準修士課程に在籍したのは半年ほどでした。
 授業では理論や手法はもちろんのこと、高校でスクールカウンセラーとして実習もさせてもらいました。ニュージーランドでの名称は「ガイダンスカウンセラー」といいます。

過去から未来へ 自分を認める強さを

 辛いときや苦しいとき、「皆頑張っているのに自分だけ文句は言えない」というような風潮が日本には存在します。そもそもそういったものが文化として根付いているということに気付いていない人も多いので、その悩みのうち幾つかは、意外と海外に出てしまえばどうでもいいことだったりするんです。ただ特定の文化に属している限り、困難は自分で乗り越えていかなければ根本的な解決にはなりません。
ではどうやって解決に導くかですが、人と関わりながら生活していくのであれば答えは2通りしかないと思っていて、まずは自分がもっと頑張るということ。そして2つ目は他人が変わるということ。何かがあったときに他人のせいにできる人は自分を追い詰めたりしませんから、カウンセリングに来る人は「自分がもっと頑張らなくては」と思っていることが多いです。
 だから頑張りすぎて疲れてしまった人を相手に「どれだけ頑張りたいのか」という質問を投げ掛けても意味がありません。それから実は、よくやってしまいがちな「頑張らなくていい」というアドバイスも有効的ではないんです。
 「これでいいんだ」と自分で思えるようにならなければ本当の意味で解決したことにはならないので、意識的に頑張らないようにしても努力していない自分を認めてあげられるかといえば、そうではありません。自分がやらないことによって他人にも迷惑をかけるし周りから期待もされていないという風に、承認欲求を満たすこともできず落ち込んでいく一方です。
 大事なのは、その人自身の過去の行いを認めてあげること。そうすることで、もしかしたら考えが全て変わるわけではないかもしれないけど、「自分はちゃんとやった」という事実を踏まえて、少しだけ先に進めるかもしれません。これが2013年に設立した移民、難民向けにカウンセリングを提供している「Diversity Counselling New Zealand」で私が行っているナラティブセラピーです。カウンセラーによってまた異なったセラピーが受けられ、日本語での対応もしています。

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カウンセリング業界を変えていきたい

 日本もニュージーランドも、カウンセリングの質はそう良くないと思っています。この業界では「人を見て学ぶ」という機会が圧倒的に少ないからです。表面的にはクライエントのためと言ったりしますが、実際にはカウンセラーの方も自分のやり方を観察されるというのはかなりのプレッシャー。だからトレーニング体制が整っていないというのが現実問題にあって、良い人材を育てるためにはどうにかしなければならないと思うけど、まずは人に見られてもいいと言ってくれるような優秀なカウンセラーを確保しなければなりません。

 日本でたまにある、目上の人が何をやっても「すごいですね」と言われてしまうような、そして若者には意見をさせないというような、視野が狭い文化が根付いてしまっては意味がない。批判的なことだけでなく、建設的な意見交換ができる場を設けたいんです。
 すごく大変なことだと思います。だけど、自分なりに工夫して業界に挑戦するのも面白そうだと感じています。カウンセリングは人とのやり取りの中で生まれるものなので、勉強だけができても駄目で、続けていれば自然と身に付くというものでもない。だからこそ、適切なプロセスを踏む必要があるんです。
 そうやっていつか、ちゃんとした教育が受けられるシステムの土台を作っていければいいと思っています。

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