Vol.141 ニュージーランドはもともと世界最先端の福祉国家でした


オークランドの語学・専門学校のオークランド・ゴールドスター・インスティチュート(Auckland Goldstar Institute, AGI)で行われている介護コースと提携して3週間のインターンシッププログラムを実施した立教大学コミュニティ福祉学部の芝田英昭教授。今回は16人の学生が参加し、来年からこのインターンシッププログラムはコミュニティ福祉学部の正規課目にもなるという、AGIのケアコースの注目ポイントについて語っていただいた。

aic【Profile】
Hideaki Shibata
立教大学コミュニティ福祉学部教授、博士(社会学)

芝田英昭 1958年福井県生まれ。金沢大学大学院博士後期課程単位取得退学。立命館大学で博士号を取り、2009年より現職。『ニュージーランド福祉国家の再設計』(法律文化社)をはじめ、社会保障、社会福祉の著書も多い。

英語留学
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Mt Roskill Grammar School校内にあるケア施設Maclean Centreにて。
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Sunnydene Special Schoolにて。前列の男性がリーダーの竹内良さん。

ニュージーランドで介護を学ぶということ
立教大学のコミュニティ福祉学部は日本の夏休みの時期に海外インターンシップを実施します。ひとつはアメリカのシアトルで銀行やスポーツクラブでのインターンシップを、もうひとつはこのニュージーランドでの福祉施設でのインターンシップです。立教大学のコミュニティ福祉学部は各地域に住む人たちがそこに住む他の人たちとどのようにつながりを作っていくか、地域と住民の関わり方を学び、少子高齢化と言われる今後の社会環境が変化して行く日本で求められる人材を育成するのが目的です。卒業生はほとんどが公務員になります。実はAGIのケアコースはニュージーランドで最もレベルの高いNZQAのレベル6です。大学を含めたあらゆる教育機関の中で最も高いレベルなのです。AGIの担当者からコースの紹介を受けた時に学生たちの刺激になるおもしろい内容だと思いました。ニュージーランドが世界最先端の福祉国家だったことはご存知でしたか? 日本でよく福祉国家というと例に出されるのは北欧ですが、北欧が福祉国家として知られるようになる前にニュージーランドは福祉国家だったのです。ニュージーランドは女性参政権や無料の教育制度、家族手当制度を世界に先駆けて実施し、国民を手厚く保護する気質のある国なのです。しかし1980年代のロジャーノミクスで知られる社会福祉予算の削減、医療分野への助成金削減などの経済改革のみならず、中央省庁の改革、公共部門の見直し、公益法人の再編・民営化・民間部門への売却など行政改革を断行して、財政を回復させましたが多くの痛みを伴ったと言われ、福祉国家と決別せざるを得ない事になったわけです。私がニュージーランドの福祉政策に興味を持ったのは、そういった福祉国家の基盤が変化する中で社会保障がどのように変化していくのかを見つめる好例でしたし、日本でニュージーランドの社会福祉政策について研究していた人がほとんどいなかったからなのです。今後の日本の社会保障のあり方についてニュージーランドは参考になることがたくさんあったのです。その後ニュージーランドを頻繁に訪れ、2001年からウェリントンのヴィクトリア大学でニュージーランドの社会保障・社会福祉の客員研究員として1年2ヶ月ほど滞在し、ニュージーランドとの関係が深くなっていきました。

英語の勉強と福祉施設での実地
今では福祉国家とは言えなくなったニュージーランドですが、日本と比較すると福祉政策や現場での違いが多くあり、学ぶことはたくさんあります。まず政策面では日本が被保険者の納付する医療保険料・年金保険料・介護保険料などの保険料と、国・都道府県・市区町村の税収からの給付によってまかなわれているのに対して、ニュージーランドでは完全に税金で賄われている違いがあります。また、日本は介護保険と医療保険にあるように、介護と医療を分けて考えているのに対して、ニュージーランドではその両方を一本化しニュージーランドを20の地区に分けて、各地区のDistrict Health Boardが一元管理しています。現場では介護者(ケアをする人)を中心にシステムができているニュージーランドに対して、日本では被介護者(ケアを受ける人)が中心になっています。ニュージーランドでは40キロ以上の重さのものに対しては機械を使います。被介護者の移動は機械が行うのです。日本では身体を使って被介護者をケアします。結局介護者が怪我をすることも多く、離職を引き起こしているのです。日本では介護者を怪我させないような制度を整えるという視点が欠けています。給与面でもニュージーランドの介護者は平均時給20ドルに対して、日本では1,000円前後。これらが日本国内で介護者不足を引き起こしてしまうのです。実際、コミュニティ福祉学部の全学生370人のうち福祉学科は、毎年約150人が卒業しますが、ほとんどがサラリーマンや公務員になり、福祉現場に行く人は15人程度にとどまります。

インターンシップの内容
このインターンシップでは英語を学び、老人介護、身体障害者ケア、幼児ケア施設に行ってニュージーランドの福祉現場を体験します。目的はどちらの国の福祉政策が進んでいるかを見る事ではなく、互いに比較し、参考になる事があれば活用してみようと考える視点を持つ事なのです。3週間の滞在中、学生たちはホームステイをして、バスで通学するなどニュージーランドの生活に触れるわけですが、いろいろな不便を感じたり、英語ではない言語を聞いたりと、異文化を体験しているはずです。この機会が学生たちの将来に日本と海外をつなぐ、また、日本を別の視点から見ようとするきっかけ作りになれば目的を達した事になるのではないかと思います。

参加者のことば
今回のインターンシッププログラムのリーダーを務めた、コミュニティ福祉学部福祉学科2年 竹内良さん日本で情報として知っていたニュージーランドの福祉環境でしたが、ニュージーランドに来てみて分かった事がたくさんありました。日本では障害と診断されないまでも健常者でもない、グレーゾーンの人たちは研究の対象になっているだけで置き去りにされているケースが多いのですが、ニュージーランドではグレーゾーンであるないに関わりなく広く支援されていると感じました。ニュージーランドは障害者に対してやさしい国なんですね。このプログラムは英語の研修もあります。一般英語を勉強した後、福祉に関する英語も勉強します。卒業後はソーシャルワーカーになって、ニュージーランドで学んだ事を仕事に活かせればと思います。

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