やわらかなタッチで書かれた、ユーモアを感じる動物の絵。それを描いた彼の口から将来の夢を聞いた時、彼がやさしげな絵を描く理由がわかった気がした。今年3月にWhitireia(フィティレイア国立工科大学)を卒業した勝亦秀彰くん。ゼロから始まった彼のニュージーランドでの生活と、これからの夢について話を聞いた。
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一からやり直そう、と思った
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Whitireiaで好きだった授業は、絵画の他にArts History(美術史)の授業。 | |
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好きな画家はアルフォンス・ミュシャ。柔らかい光と細かな背景に惹かれる。 | |
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絵は2-3日に1枚のペースで仕上げる。大学で色々な技法を学んだが、やはり水彩画が一番。 | |
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絵を描くのは昔から好きでした。ただ、中学に入ったころ絵から遠ざかってしまって、その後は文化祭で劇をやった影響で、役者になるのが僕の夢でした。高校1年目は、その夢を叶えるために日本舞踊やタップダンス、発声や演劇の練習などを学べる東京の学校へ通いました。そこで、役者になるための競争社会にはじめて触れて、憧れと現実の差を目の当たりにしたわけです。その頃、僕は自分の目標を見失ってしまって、「どこへ向かえば良いのか」「何が本当にしたいのか」そして「自分に何が残っているのか」わからなくなっていました。ただ、姉がアメリカに留学していて、いつか海外に行きたいという漠然とした気持ちがありました。できるのなら都会でない静かなところ。ニュージーランドについては、名前しか知らないという状況でしたが、当時お世話になったエージェントの勧めでやってきました。とにかく、一からやり直そう、僕の中にあったのはそれだけでした。
とにかく嫌でたまらなかった
ニュージーランドに来て、マタマタというハミルトンの近くにある地域の高校に通いました。当時の英語力は最悪でした。いま考えればよくあれで1年も過ごせたなと思います。当初しゃべれたのは、Yes, No, That, This。あとは日本語英語で使われている単語のみ。まったく書くことも、ちゃんとしたセンテンスをしゃべることもできませんでした。その状態で、高校の普通の科目とESOL(英語が第2外国語の人向けの英語クラス)をとっていました。友達もいないし、とにかく嫌でたまりませんでしたよ。でも、親が厳しかったので途中で投げ出して帰ることもできませんでした。そうやって、最初は右から左に言葉が抜けていく状態で授業を受けて、そのうち日本人の友達ができて、そこから今度は他の国籍の友達ができてと、だんだんと慣れていきました。来て2年目くらいから、ようやく英語でコミュニケーションをとるのに苦労を感じなくなりましたね。
少しずつ美術の道へ
最初マタマタの高校で勉強し、NZの生活にも慣れて来た頃オークランドの高校に転校しました。オークランドの高校で学ぶうちに、美術の道に進むのを意識するようになりました。大学への進学にあったって、Whitireiaのアートコースが良いよと勧められ入学を決めました。Bachelor of Applied Artsというコースで、専攻はVisual Arts and Design。僕は水彩画が一番好きなのですが、このコースでは1年目は幅広い技法を学びます。絵画、彫刻、版画、テキスタイル。ジュエリーもやったのですが、僕はあまり向いてないと思いました。そういう意味では幅広く学んで自分がやりたいことがはっきりしたので良かったです。2年目の最後のGroup Exhibitionにて、色部門で賞を頂きました。まさか自分が賞をとれるなんて思っていなかったので、名前を呼ばれた瞬間気付かなかったんです。絵画という、自分のやりたいことを見つけて、小さな一歩ですがそれが認められたようで、とても嬉しかったです。その後も3年生になってから日本の絵本イラストコンテストの絵画部門で特別賞を受賞、これらはアーティストとして大きな自信になりました。
子供の絵本をつくる、という夢
在学中に、Porirua Railway Station Upgrade Projectというプロジェクトに教授の誘いで参加しました。これはPoriruaの鉄道の駅を活性化しようというコンセプトで、地元のアーティストが協力して写真や壁画で地下鉄の駅を彩るというプロジェクトです。僕は、大きな壁画を描きました。モチーフはマオリの神話です。大人も子供も見て、楽しい気持ちになるといいなと思って描きました。このプロジェクトが、Golden Foot Awardを受賞し、僕の壁画も地元の新聞に掲載されました。今年の3月でWhitireiaを卒業し、現在就職活動中ですが、これらの実績が実力として認められている、という感触はあります。まずは出版社でフリーランスで働き、仕事を増やしていけたらと思っています。これから留学や学校で悩んでいる人には、月並みかもしれないけど、あきらめないでと伝えたいです。僕もまだまだこれからです。将来の夢は絵本を作ること。子供の時絵本から学ぶことが多かったので、そんな絵本を作りたいなと。自分の、日本とNZでの旅の話を生涯かけてでもいつか絵本にしたいです。